『吉田修一は、短編集も悪くない。』
男性視点で過去に「擦れ違った」さまざまな女を描いた作品。11の短編で11人の女たちが登場する。炊事、洗濯、掃除はおろか、腹が減ってもコンビニ弁当すら買いに行こうともしない女が男の家にいついた「どしゃぶりの女」。新宿の公衆電話で電話待ちをしている時に会話を盗み聞きしてしまった女を勤め先で見つけてしまった「公衆電話の女」…。
淡々としていて「いい女」は一人も出てこないが、どの女も、どの挿話も、リアリティーがあまりにも強すぎる。バーで出会った自堕落な女、別れの言葉を一言も残さずいなくなってしまう下町の女、駅で出会った美形の女、些細なことでも泣きべそばかりかいている女…、本当にさまざまな女が登場し、男であれば誰もがそんな女の記憶をもっている。
どの短編にも小気味のよい「落ち」があり、女は不可解さを残し去っていく。女性から見れば軽薄でつまらない話しばかりなのかもしれないが、男にとっては、その「余韻」が何ともいえない。男には理屈がなくて、映像の残影だけがあるのだから。
これまで吉田修一の長編しか読んだことがなかったが、短編もなかなか悪くない。切れ味は、もしかしたら長編よりも上かもしれない。